知的障害・発達障害のある方に向けて、「性(セクシュアリティ)」のことを、できるだけやさしい言葉で説明します。
性に関する正しい知識を身につけることは、自分自身の心と体を守り、安心して生活するためにとても大切です。性教育は「セックス」だけの話ではありません。思春期の体や心の変化、好きという気持ち、自分を守る力まで、ぜんぶ含まれています。
むずかしい言葉には( )でふりがなを付けています。自分のペースで読み進め、わからないところは信頼できる大人に質問してください。性のことを学ぶのに、遅すぎることはありません。
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「性」(セクシュアリティ)とは、人間にとってとても大切なもの。体の性別だけでなく、心の性、好きという気持ち、恋愛、性行為まで、いろいろな意味が含まれます。
思春期(ししゅんき)になると、体つきや心にいろいろな変化が起こります。男の子は声が低くなったりヒゲが生えたり、女の子は胸がふくらんだり月経(げっけい・生理)が始まったりします。誰かを「好きだな」と思う気持ちが芽生えることもあります。こうした体と心の成長も、性の大切な一部分です。
性について正しく知ることは、恥ずかしいことではありません。性は人間の自然な一部であり、誰もが向き合うものです。自分の体と心について知ることは、自分らしく生きるための大切な一歩です。
世界では今、ジェンダーや性の多様性、自己決定の尊重まで含めて教える包括的性教育(ほうかつてきせいきょういく)の流れが広がっています。これから一緒に、一つひとつ学んでいきましょう。
体の中には、他の人に見せたり触らせたりしてはいけない「特別で大切な部分」があります。それをプライベートゾーンと呼びます。
男性の体にはペニス(陰茎)と睾丸(こうがん)、女性の体には膣(ちつ)・子宮(しきゅう)・卵巣(らんそう)や胸(乳房)があります。男性と女性で体のつくりは違いますが、どちらの体も等しく大切です。
具体的には… 口・胸(乳首をふくむ)・おしり(肛門まわり)・性器(男性のペニスと睾丸/女性の陰部)。とてもデリケートで大切な「自分だけの大事なところ」です。
プライベートゾーンを守るのは、汚いからではありません。むしろ反対で、あなたの体がとても大切なものだから守るのです。「そこは汚いから隠しなさい」ではなく「大事なところだから大切にしようね」と伝えられると良いですね。
人の性のあり方は、体の違いだけではありません。心の性別(性自認)や、誰を好きになるか(性的指向)も、人それぞれ多様です。
自分が心の中で「自分は男だ」「女だ」「どちらでもない」と感じる気持ちを性自認といいます。多くの人は体の性と性自認が一致していますが、一致しない人もいます。生まれたときは体が男性でも心は女性だと感じる人をトランスジェンダー、男女どちらにも当てはまらない人をノンバイナリーなどと呼びます。
性自認や性的指向は、自分で自由に選んだり変えたりできるものではなく、その人の大切な個性です。自分と違う人を「おかしい」と決めつけたり、からかったり差別したりしてはいけません。「自分は少し違うかも」と感じても、悪いことでも恥ずかしいことでもありません。自分も他人も、ありのままの性を大切にしましょう。
恋愛(れんあい)とは、特別に「好きだ」と思う相手に抱く気持ち。ドキドキしたり「ずっと一緒にいたい」と思う特別な感情です。障害のある方も、もちろん恋愛感情を抱きます。自然で、素敵なことです。
恋愛は一人では成立しません。相手も自分を好きでいてくれて、初めて「付き合う」ことができます。断られたら悲しいけれど、相手の気持ちを受け入れましょう。何度もしつこくアプローチするのは、相手に恐怖や不快感を与えてしまいます。
恋人だからといって、相手を思い通りにしていいわけではありません。お互いに対等(たいとう)な関係でいることが大切。デートに誘うときも相手の都合や希望を聞き、ケンカしたときは感情的にならず落ち着いて話し合いましょう。
「好きだから」と携帯を無断でチェックしたり、行動を監視したり、束縛しすぎるのは良い関係ではありません。恋愛は二人でするもの。お互いを思いやりましょう。
恋人同士でも、性的な行為は二人がよく話し合い、無理のない範囲で。どちらかが嫌がっているのに無理にするのは絶対にいけません。「断ったら嫌われるかな」と心配でも、本当にあなたを大切に思う相手なら、あなたの気持ちを尊重してくれるはずです。
同意(どうい)とは「相手のすることをよいと認めること」。性に関しては、お互いがやってもいいと納得している状態を指します。恋人でも夫婦でも、同意のない性的な行為はしてはいけません。
相手がはっきり「うん、いいよ」と言って、初めて同意があります。
「NO」はもちろん、黙っているのも同意ではありません。途中で気が変わったら、すぐに中止します。
気持ちを言葉にするのが苦手でも、普段から「これ平気?大丈夫?」と確認し合うクセをつけておくと、大事な場面でも気持ちを話しやすくなります。信頼関係は、日頃の思いやりと会話から築かれます。
2023年、日本の法律が改正され、相手の同意のない性交等は犯罪であることが明確化されました(不同意性交罪)。「Only YES means YES(イエスと言われないなら同意ではない)」。自分の気持ちも相手の気持ちも、大切にしてください。
マスターベーション(自慰行為)は、自分で自分の性器に触れて性的な気持ちよさを得る行為。自然で普通の行動であり、男性でも女性でも行います。恥ずかしいことでも悪いことでもありません。
大きくなると「人前ではダメだよ」と注意されることがあります。それはあなたの体が大人に近づいたからこそ守るべきルール。「自分が悪い子だから」ではなく「大人としてのマナーを教わっている」と受け止めてください。ご家族・支援者も、頭ごなしに叱らず、適切な場所ならOKなことを根気強く伝えてあげてください。
性的な欲求の強さや頻度は人それぞれで、どれが普通ということはありません。ただ、一日中そのことばかり考えてしまう・肌を傷めるほど繰り返すなど生活に支障が出るときは、スポーツや趣味で気を紛らわすのも効果的。心配なときは、お医者さんやカウンセラーに相談できます。
妊娠(にんしん)とは、女性の体の中に赤ちゃんが宿ること。出産(しゅっさん)とは、赤ちゃんが生まれてくることです。
ただし、性行為をしたからといって必ず妊娠するわけではありません。でも一回の性行為でもタイミングが合えば妊娠する可能性はあります。妊娠のサインで多いのは「月経が予定の日に来ない」こと。妊娠検査薬や産婦人科(さんふじんか)で確認できます。心配なときは一人で悩まず、信頼できる大人に相談を。
子どもを望まないうちは必ず避妊をするのが原則。日本で一般的なのは…
避妊は「男性が用意するもの」ではなく、二人の共同の責任です。女性も「ちゃんとゴム持ってる?」と確認し、ないなら「今日はやめておこう」と断る勇気を。失敗したときは緊急避妊薬(アフターピル)という方法もあります(早めに産婦人科へ)。性の知識は、自分の未来を守る力になります。
性感染症(STI)とは、性的な接触によってうつる病気の総称。クラミジア、淋病、梅毒(ばいどく)、HIV(エイズ)、性器ヘルペスなどがあり、放置すると体に深刻なダメージを与えます。
知らないうちに感染し、悪化させたりパートナーにうつしたりすることも。相手がどんなに健康そうでも、感染している可能性はゼロではありません。見た目では判断できません。近年は梅毒が急増しています。
感染経路は主に性行為。性行為の際は必ずコンドームを正しく装着するのが基本中の基本です。完全ではありませんが、何もしないより格段にリスクを下げられます。
膿が出る・排尿時に痛い・かゆみや腫れ・発疹・原因不明の高熱などがあれば要注意。男性は泌尿器科、女性は婦人科へ。細菌が原因なら抗生物質で治せます。早期発見・早期治療が大切。恥ずかしくても、お医者さんはプロですから遠慮なく相談を。近くに信頼できる大人がいれば付き添ってもらいましょう。
「だらしないからかかる」という偏見は適切ではありません。誰でも感染リスクはあり、きちんと予防・検査・治療をすれば怖がる必要はありません。「自分は大丈夫」と思わず、しっかり予防する態度を身につけましょう。
世の中には、弱い立場の人につけ込んで性的に乱暴なこと(性的虐待)をしたり、利用(搾取)しようとする人がいます。知的障害・発達障害のある人は性被害に遭いやすいと言われています。
もし性被害に遭ってしまっても、それは決してあなたのせいではありません。「断れなかった」「ついて行ってしまった」から悪いのではなく、無理やり性的な行為をする方が100%悪いのです。自分を責めず、必ず周囲に助けを求めてください。
決して自分を責めないで。悪いのはやった相手です。勇気を出して信頼できる人に話し、警察にも相談を。各地に性暴力被害者のワンストップ支援センターがあり、診察・カウンセリング・警察への同行などを総合的に支援してくれます(女性スタッフが対応するところも多数)。泣き寝入りしないでください。
「自分なんてダメだ」と思っていると付け込まれやすくなります。そうではなく、「自分は守られるべき大事な存在なんだ」と思ってください。あなたには幸せになる権利があり、嫌なことを拒否する権利があります。
障害のある人にも、恋愛や結婚、性に関する自己決定(じこけってい)の権利があります。「障害のある人も自分の人生を自分で決めていいんだ」という考え方が、今、社会に広がっています。
2023年には日本政府が各自治体に、知的障害者の結婚や子育てを支援するよう通知を出しました。障害があっても本人が望むなら、結婚や子育てを社会全体でサポートしようという動きです。
誰と恋愛し結婚するか、結婚しないか、子どもを持つか持たないか —— 最終的にどう生きるかを決めるのはあなた自身です。周りは、その意思をできる限り尊重し、支援するべきなのです。
権利は「わがまま」とは違います。自分に「付き合うか決める権利」があるように、相手にも同じ権利があります。自分が「付き合いたい」と思っても、相手が「嫌だ」と言えば受け入れる。お互いの「NO」を尊重し合うこと —— それが人権をお互いに尊重するということです。
性に関する自己決定とは、裏を返せば自分の人生に責任を持つことでもあります。でも大丈夫、困ったときは周りのサポートを受けながらでいいのです。障害があってもなくても、みんな支え合って生きています。恐れずに、自分の望む道を選んでください。
性の悩みは一人で抱え込みがちですが、相談できる専門の窓口が全国にあります。困ったときは、ぜひ利用してください。「こんなこと相談して怒られないかな」と萎縮する必要はありません。
お父さん・お母さん、兄弟姉妹、施設の職員さん、学校の先生、ヘルパーさんなど、あなたをよく知る信頼できる大人に率直に打ち明けてみましょう。話しづらい内容なら、外部の相談窓口を利用できます。
窓口の利用が一人で不安なときは、支援者に同行してもらうのも良い方法です(産婦人科に一緒に行く、電話相談を一緒にかける、など)。性の悩みは決して悪いことではありません。あなたを助けたいと思っている大人は必ずいます。孤独に思わないでください。
最後に、社会の中で性や人間関係について守るべきルールを確認しましょう。ルールは皆さんを縛るためではなく、皆さんと尊厳を守るためにあります。
人前で服を脱いだり性器を露出しない、人前で性的な行為をしない —— これは法律(公然わいせつ罪など)でも禁じられています。裸になるのはお風呂や着替えのときだけ。人前での濃厚なスキンシップも、周囲を不快にさせることがあるので節度を持って。
恋人同士でも、相手の許可なくスマホを見るのはプライバシー侵害。二人だけの大事な秘密(特に性的な内容)を、面白半分に他人に話さないこと。自分が言われて嫌なことは、相手にも言わない・しない。
振られたとき、ストーカーのようについて回ってはいけません(近づかない・連絡しない)。逆に自分がストーカー被害やリベンジポルノなどの被害に遭ったら、放置せず警察や大人に相談を。泣き寝入りしないでください。
どんな人にも性があり、学ぶ権利があります。周囲の理解が足りないと感じたら、「性の話をちゃんと教えてほしい」と声を上げていいのです。一人ひとりが、自分も他人も尊重しながら、安心して暮らせる社会になっていくことが理想です。
正しい知識を持っていれば、自分自身を守れますし、相手のことも思いやることができます。性を隠すのではなく、正しく知り、上手につきあっていきましょう。皆さんが自分らしく幸せな人生を歩めるよう、心から応援しています。
自分も相手も大切に