親なき後
遺すのは、お金ではない。
とはいえ、税にまつわる話もおまけです。
このページの内容
支援者の方は、03 の『3つの道具』と 04 の資料室からご覧ください。
わたしたちの考え
目次へ戻る ↑お金より、遺すべきものがある
「親がいなくなったら、この子のことを一番に考えてくれるのは誰だろう」——障がいのある子をもつ親にとって、これは切実な問いです。
多くの場合、その備えとしてまず「お金」が考えられます。けれどもわたしたちは、お金を遺すことが必ずしも本人の幸せにつながるとは限らない、と考えています。 本当に必要なのは、親や家族が長い年月をかけて積み重ねてきた「我が子を守るための知恵」——どんなときに不安になるのか、何を大切にしているのか、誰が支えてくれるのか——そうした暗黙知を、言葉にして遺すことです。
nest がめざすのは、その知恵と、支援者たちの経験を持ち寄り、親なき後も本人の暮らしを支え続けられる「仕組み」をつくることです。
「親なき後」を希望に変える
NPO法人nestが歩んだ15年の挑戦と、これから
「親が元気なうちに、子どもが成人した後の暮らしをどう設計するか」。これは、知的障害や発達障害のある子を持つすべての親が抱える、切実な問いです。
NPO法人nestは、まさにこの「親なき後問題」に真正面から取り組むために誕生しました。設立から15年。積み重ねてきた活動は、単なる福祉サービスの提供を超え、親たちが不安を共有し、地域を巻き込みながら「安心のネットワーク」を創り上げる物語そのものです。
「本気」のスタートが切り開いた自立への道
2011年、親たちの「子どもが成人した後も、この街で自分らしく生きてほしい」という切実な願いから始まった「本気プロジェクト」。ここからすべては始まりました。
既存の施設に預けるのではなく、自分たちの手で暮らしの場を作る。その目標に向け、保護者たちが毎月話し合いを重ね、2012年に「木町STATION」を開設しました。ここでの自立体験プログラムは、親元を離れることへの恐怖を、自立への自信へと変える第一歩となりました。
実践の中で深まる支援の形
nestの強みは、常に現場の声から次の施策を生み出してきたことにあります。
- グループホームの実現(2013年〜)自立体験プログラムを経て、実際に「原町STATION」「木町BRANCH」といった地域生活の場を開設。スタッフの支援を受けながら、当事者が「その人らしい暮らし」を送れるようになりました。
- KAREI(華麗&加齢)プロジェクト(2014年度〜)子どもの衣食住だけでなく、親自身の老後や法律上の手続き、家財の処分といった、避けて通れない「親の身仕舞い」まで含めた具体的な議論をスタート。専門家を交えたサポートネットワークの礎を築きました。
- 巣立ちネットの始動(近年)不安を抱える親子が共に話し合う「あんしん親子会議」や、会員相互の助け合いを目指す互助会「巣立ちネット」を立ち上げました。
「拠点」から「地域」へ――これからの展望
nestの取り組みは、今や一つのNPOの枠を超え、地域全体を耕すフェーズへと移行しています。
直近の「nest巣立ちネット」の運営や、日本財団助成事業「巣立ちプロジェクト」を通じて、意思決定支援の重要性を広め、支援者ネットワークを構築しています。また、カフェ「キッチン&マルシェ木町家」のように、障害のある人が働く場でありながら、地域住民が気軽に立ち寄れる拠点を運営することで、「障害のある人が地域で役割を担う」という共生の形を実現しています。
nestの歩みは、親の「願い」を、当事者の「力」に変え、それを地域の「支え合い」という形に昇華させる過程でした。
「親なき後」は、一人で抱えれば深い闇ですが、仲間とともに仕組みを作れば、それは未来への希望になります。nestがこれまで紡いできたネットワークと、これから創り出す仕組みは、同じ悩みを抱える多くの家族にとって、確かな灯火となるはずです。
めざすネットワークを、一枚の地図に
その地図の真ん中にいるのは、制度でも、親でもなく、本人です。 どこで暮らすか。誰と暮らすか。どんな毎日を送るか——支援者の力を借りながら、決めるのはいつも本人。 そして本人のいちばん傍らには、思いが言葉になるまで待ち、選ぶ過程に伴走する「意思決定支援者」がいます。 わたしたちが15年かけて紡いできた「安心のネットワーク」がめざす理想のかたちを、動く地図にしました。
丸をドラッグすると動かせます。クリックすると、それぞれの支え手の「理想のかたち」が読めます。 全画面で地図を見る →
声を聴く
目次へ戻る ↑私の想い
「親なき後」を思うとき、胸にあることを、ご家族のことばで寄せていただくコーナーです。 同じ立場の誰かが読んで、「わたしだけじゃない」と感じられる場所にしたいと考えています。 まとまっていない想いも、答えの出ていない迷いも歓迎します。
何が何でも病気にはなれません
いま一番気がかりなこと
39歳の最重度の障害を持つ息子と暮らしています。
最近仕事をリタイアして、これから私の終活と息子の自立を考えようとしているところです。
息子は身体と知的の重複障害を持ち、発語はなく自分の意思を伝えることはできません。食事、排泄、移動、洗面、入浴全てに介助が必要です。デイサービス(生活介護)とホームヘルパー、ショートステイ等を利用して在宅生活を続けています。
ショートステイは1~2ヶ月前に予約して、他の利用希望者と調整後利用可能になります。利用希望者が多いため急な変更は難しい状況です。現実的に緊急時の対応はできません。緊急の用件のためにベッドを空けておくことができないからだそうです。それって「何のためのショートステイなのだろう」と思いませんか。運が良くてたまたまベッドが空いているということがなければ、利用したことのないどこか空いている施設に何とかお願いすることになります。そんな怖いことはとてもできません。
私は何が何でも病気にはなれないのです。
ショートステイ利用の度に「ひとりでぽつんと自室に居るのではなく、できるだけ皆の居るホールで過ごさせて下さい。」「時々屋外での散歩をお願いします。」と希望しています。
コロナ以降はホールで過ごせることが多くなったみたいですが、これから寒くなって感染症対策とかで変わってしまうことが心配です。
屋外の散歩は3回に1回位かなえられているようですが、時間的にはせいぜい10分程度でしょう。建物のまわりには、外で長い時間を楽しく過ごせるような場所がないからです。
そういう訳でショートステイを利用する度に、私は息子に申し訳なくて辛い気持ちになるのです。私と離れている時に息子が楽しい時間を過ごしていて笑顔で居られるのであれば私の心はどんなに軽くなることでしょう。
それ程多くのことを望んでいるとは思えないのですが…
私は何が何でも病気にはなれません。
寄稿
親なき後にかかわる読みものを掲載しています。
- 保険金を、一度に渡さない 生命保険信託という道具の使いどころ ― 親が亡くなったあと、保険金はだれが配るのか ― 生命保険の保険金を信託銀行に預け、親が決めた量だけお子さんに届けてもらう「生命保険信託」。何ができて、何ができないのか。費用と税金、気をつけたい点、似た仕組みとの違いを、図を使って整理しました。2026年11月から大手1社が新規受付を止める事情も含めて。
- 障害のある子に財産を遺すことは、 なぜ有効に機能しないのか ― 終わりなき親亡き後問題 ― 信託や保険で財産を遺しても、それを本人の暮らしに変える担い手が、制度上どこにもいない。そして、本人が何を望んでいるのかを、私たちはまだ知らない。親なき後の備えを、本人の側から問い直しました。
いま、備える
目次へ戻る ↑知恵を、引き継げる形に
わたしたちは、親や支援者が蓄積してきた知恵を、特定の誰かの記憶だけに頼らず、支援に関わる人たちみんなで引き継いでいけるようにする仕組みづくりに取り組んでいます。
本人の医療・生活の情報、大切にしていること、緊急時に気をつけること、支えてくれる人のつながり——こうした情報を整理して残し、必要なときに必要な人へ確実に引き継げる形にする。 それが、親なき後も途切れない支援を実現するための、nest 発の挑戦です。
その仕組みを、計画相談支援の担当者・意思決定支援に関わる方に向けた3つの道具として、無償で公開しています。 聞く(記録ガイド)→ 渡す(記録テンプレート)→ 引き出す(支援データベース)というひとつの流れで、 新しい面談枠を作らず、すでにある業務の場面の中で始められます。
そしてご家族向けに、「日記からつくる、わが子のバイブル」を公開しました。 障がいのあるお子さんをもつ親御さんが、親がいる「今」から我が子の歴史を作り上げていくための記録テンプレートです。 親がすることは、AI に「今日こんなことがあった」と話すだけ。積み重ねが、いつか本人の隣に立つ支援者への贈りものになります。
ご家族向けのテンプレートを見る →
支援者向けの3つの道具を見る →
※ 実際の利用者・ご家族の情報を本ウェブサイト上で扱うことはありません。入力された情報は、すべて導入された事業所の手元に残ります。
※ 仕組みとしては検証済みですが、実務に沿っているかはまだ確かめの途中です。
更新・サポート・免責についてをご確認のうえご検討ください。
とはいえ、知っておきたい税の話
遺すのはお金ではない——わたしたちはそう考えています。けれど、制度を知らないばかりに税金を納めすぎたり、使えるはずの仕組みを逃したりする必要もありません。 障害のあるお子さんとご家族が使える税の特例を、「いつ効くのか」で整理しました。窓口に行く前の予習として、お役立てください。
まず、「区分」を知る
税の特例は障害の程度で2つの区分に分かれ、重い区分ほど優遇が大きくなります。お子さんの手帳と照らし合わせてみてください。
身体障害者手帳 1・2級/療育手帳 A(重度)/精神障害者保健福祉手帳 1級 など
身体障害者手帳 3〜6級/療育手帳 B(中・軽度)/精神障害者保健福祉手帳 2・3級 など
※ 手帳がなくても、市区町村長の認定などで対象になる場合があります。
この区分で金額が変わるのは、下の6つのうち3つです(所得税・住民税の障害者控除、相続税の障害者控除、特定贈与信託)。残りの3つは、区分による違いはありません。
6つの制度を、「いつ効くか」で見る
所得税・住民税の障害者控除
所得税 27万〜75万円+住民税 26万〜53万円を所得から控除
本人に収入がなくても、扶養している親の側で受けられます。
- 一般障害者所得税27万円・住民税26万円
- 特別障害者所得税40万円・住民税30万円
- 同居の特別障害者所得税75万円・住民税53万円(見落としが多いところです)
年末調整・確定申告に書くだけ。さかのぼって5年分の還付請求もできます。
根拠:所得税法79条/地方税法34条・314条の2(各1項6号・3項)
少額貯蓄の利子非課税(マル優)
元本350万円+国債等に別枠350万円
通常20.315%かかる預貯金の利子が非課税になります。特別・一般の区分による違いはありません。障害者手帳(等級を問わない)を持つ方や、障害年金を受けている方など、本人名義の預貯金が対象です。
手帳などを持って金融機関の窓口で申込み。自動では適用されません。
根拠:所得税法10条・租税特別措置法3条の4/特別マル優は同法4条
相続税の障害者控除
1年につき10万/20万円×85歳までの年数
相続税そのものから直接差し引けます。
- 一般障害者1年につき10万円
- 特別障害者1年につき20万円
例えば40歳の特別障害者の方なら、(85−40)年×20万円=900万円。効果が特に大きい制度です。
引ききれない分は、きょうだいなど他の扶養義務者の相続税からも差し引けます。
根拠:相続税法19条の4
相続登記の義務化(あわせて確認)
3年以内に登記の申請が必要
令和6年4月から、不動産を相続した人は取得を知った日から3年以内の登記申請が義務になりました。過去の相続も対象です。障害の有無に関係なく、不動産を相続したすべての人に関わります。
「亡くなった祖父名義のまま」の土地・建物がないか、この機会にご確認を。
根拠:不動産登記法76条の2・164条1項(過去の相続への適用は令和3年改正法附則5条6項)
特定贈与信託(贈与税の非課税)
3,000万/6,000万円まで贈与税なし
親がまとまったお金を信託銀行に預け、銀行が生活費・医療費を本人へ定期的に渡し続ける仕組み。一度に大金が渡らないので、使い切りやトラブルを防げます。
- 一般障害者のうち知的障害・精神障害の方3,000万円まで
- 特別障害者6,000万円まで
身体障害だけの一般障害者は対象外です。
取り扱う金融機関が限られるため、事前の相談を。
根拠:相続税法21条の4
心身障害者扶養共済(しょうがい共済)
月2万円(1口)を一生涯支給・2口まで
親が掛金を払い、親が亡くなった後にお子さんへ年金を届ける都道府県の制度。受け取る年金は非課税、掛金は全額が親の所得控除になります。特別・一般の区分による違いはありません(加入できるお子さんの条件は、税の区分とは別に決まっています)。
加入は市区町村の障害福祉担当窓口へ。親の年齢が上がるほど掛金も上がるため、検討は早いほど有利です。
根拠:所得税法9条1項3号ハ・75条2項3号/相続税法12条1項5号・21条の3第1項5号
「27万円が戻ってくる」ではありません
いちばん多い誤解がここです。障害者控除は税額から引くのではなく、税率をかける前の所得から差し引く仕組みなので、軽くなる税金は「控除額 × 税率」になります。上の6つのうち、所得税・住民税の障害者控除だけがこの形をとります(相続税の控除は税額から直接引くので、金額がそのまま効きます)。
※ たとえば一般障害者で所得税率が5%の方なら、所得税27万円×5%=13,500円、住民税26万円×10%=26,000円で、年およそ4万円が軽くなります。所得税の税率は5〜45%と幅があるため、軽くなる額はご家庭によって異なります。
この3つだけでも、覚えて帰ってください
- 障害者控除(所得税・住民税/相続税)は「申告するだけ」の制度です。特に相続税の控除は数百万円単位で効きます。知らずに納めすぎているケースが少なくありません。
- 特定贈与信託としょうがい共済は「親なき後にお金を届ける仕組み」そのもの。加入・契約に時間と年齢の条件があるため、元気なうちの検討が必要です。
- マル優は窓口で手続きしないと始まりません。口座を作っただけでは適用されません。
表面に6つの制度、裏面に上の仕組み図と補足を収めた保護者向け資料です。両面印刷1枚で配れます。勉強会や窓口相談のお供にどうぞ。
根拠となる法令(e-Gov 法令検索で現行条文を確認できます)
- 障害者・特別障害者の区分:所得税法2条1項28号・29号+所得税法施行令10条(手帳の等級との対応はここに規定)。相続税では相続税法19条の4第2項+相続税法施行令4条の4
- 所得税・住民税の障害者控除:所得税法79条(27万・40万・同居特別障害者75万円)/地方税法34条1項6号・3項、314条の2第1項6号・3項(26万・30万・同居特別障害者53万円)。5年分の還付請求は国税通則法74条
- 相続税の障害者控除:相続税法19条の4(1年につき10万・20万円×85歳までの年数。他の扶養義務者からの控除は同条3項)
- 特定贈与信託:相続税法21条の4(特別障害者6,000万円・それ以外の特定障害者3,000万円)。特別障害者以外の特定障害者の範囲(知的障害・精神障害の方)は相続税法施行令4条の8
- しょうがい共済:年金の非課税は所得税法9条1項3号ハ+施行令20条、掛金の全額所得控除は所得税法75条2項3号、受給権の非課税は相続税法12条1項5号(相続税)・21条の3第1項5号(贈与税)
- マル優:所得税法10条(対象となる障害者等の範囲は所得税法施行令31条の2)。限度額350万円は租税特別措置法3条の4による読替え(所得税法本則は300万円のまま)。国債・地方債の特別マル優350万円は同法4条
- 相続登記の義務化:不動産登記法76条の2(3年以内の申請義務)・164条1項(10万円以下の過料)。施行日〔令和6年4月1日〕前の相続への適用は令和3年法律第24号附則5条6項
※ 各リンク先は e-Gov 法令検索の現行条文です(2026年8月30日照合)。条番号で該当箇所をご確認ください。
※ 金額・要件は令和8年(2026年)時点の制度に基づく概要です。個別の適用可否は、税務署・税理士、市区町村の障害福祉窓口へご確認ください。nest では個別の税務相談はお受けしていません。
資料とつながり
目次へ戻る ↑知恵と仕組みを、分かち合う
nestがこれまでに積み重ねてきた資料・しくみ・研修を、
どなたでも無償でご活用いただけます。
親なき後の備えについて
ご家族の備えや、わたしたちの取り組みにご関心のある方は、お気軽にお問い合わせください。支援者向けの3つの道具についてのご相談も歓迎します。
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