代わりに決めるのではなく、
決める経験をサポートする。
「決める」を、本人の手に
「私たちのことを、私たち抜きで決めないで」——。意思決定支援とは、本人に代わって 周囲が決めてしまうのではなく、本人が自分のことを自分で選び、決められるように支える 考え方です。何を食べるか、どこで暮らすか、誰と過ごすか。大きなことも小さなことも、 本人の「こうしたい」を出発点に置きます。
決めることには、迷いや失敗もついてきます。それでも、選び、決め、その結果を引き受ける 経験の積み重ねこそが、自分らしく生きる力を育てます。nest は、周囲が先回りして 決めてしまうのではなく、本人が「決める経験」を重ねられるよう、となりで伴走します。
巣立ちプロジェクトでは、こうした意思決定支援の担い手を育てる養成講座にも取り組んで きました。「決める経験をサポートする」——その姿勢を、地域全体で共有して いくことを目指しています。
↓ 10分間弱のスライド動画を用意しています。ゆっくりして行ってください。
「私たちのことを、私たち抜きに決めないで」
障がいのある子を持つ親にとって、「親亡き後、この子はどう生きていくのか」という問いは、 静かで、しかし切実な不安です。その不安を出発点に始まった親たちの勉強会は、やがて 「障がい者の巣立ちを促す地域生活支援(巣立ちプロジェクト)」となりました。
活動報告書に綴られていたのは、「本人のため」と信じてきた私たちの善意が、 知らぬ間に本人の意思を置き去りにしていなかったか——という、率直な問い直しでした。 「親が安心できる未来」は、本当に「本人が望む未来」と重なっているのか。 ここでは、報告書から見えてきた4つの気づきをご紹介します。
支援は「本人のニーズ」から始まる
プロジェクトの根底にあるのは、世界の障がい者運動が掲げてきた 「Nothing About Us Without Us(私たちのことを、私たち抜きで決めないで)」という言葉です。
これまでの支援は、親や専門家が「本人のため」という名目で先回りし、進路や暮らしを整えてきた 面がありました。けれど真の支援とは、代わりに行き先を決めることではなく、本人が人生のハンドルを 握ることを尊重し、その意思を形にする「伴走者」になることです。障がいのある人を 「保護される客体」から「自らの人生を決める主体」へ——その視点の転換が問われています。
「性」は、人権そのものだった
プロジェクトが踏み込んだのが「生と性」の視点でした。性教育を、単なるマナーや知識の伝達ではなく、 「包括的性教育=人権としての教育」として捉え直すこと。たとえば、人前で性器に触れてしまう 知的障がいのある子。「恥ずかしい」「やめなさい」と禁止して終えるのではなく、本人が安心して 過ごせる環境を整えることが大切だと、報告書は説きます。
否定は自尊心を傷つけます。だからこそ「プライベートとパブリック」の違いを伝え、 手遊びグッズなどの代替行動を一緒に考える。性を語ることは、自分の尊厳と他者との境界線を学び、 「より良く生きる権利」を保障することにほかなりません。
「リスク回避」が、支配になっていないか
支援者や親が気づきにくいのが、無意識の「パターナリズム(よかれと思っての干渉)」です。 「失敗させたくない」という思いが、皮肉にも本人の成長の機会を奪ってしまう。
「支援者はリスクより安全を選びがち」——報告書のこの言葉は、何度も胸に刺さりました。
本人が挑戦し、たとえ失敗しても、その経験を糧に次へ進む。私たちは、その「失敗する権利」を 認める覚悟があるでしょうか。リスクをゼロに抑え込む管理ではなく、リスクを共に引き受けながら 挑戦を支える関係こそが、ほんとうの自立を育てます。
「知らないから伝えられない」を、断ち切る
なぜ意思決定支援や性教育はこれほど難しいのか。それは、私たち大人自身が、学ぶ機会を 十分に持てなかったからです。報告書には「どう伝えていいか分からず、つい誤魔化してしまう」という 戸惑いの声が並びます。
だからこそ、自らの「知らなさ」を認め、学び直す勇気を持ちたい。大人の気恥ずかしさが、 子どもたちを困惑のなかに置き去りにする——その負の連鎖を、私たちの世代で終わらせたいのです。 報告書は、こんな決意で結ばれていました。
温泉は出るまで掘る。ならば、包括的性教育が当たり前になるまで、へこたれない。
未来へつなぐバトン
「意思決定支援」は、障がい福祉だけの話ではありません。老いや病い、人生の困難に直面したとき、 誰もが「自分らしくありたい」と願う——その普遍的な権利の話です。
「あなたのため」という言葉で、本人の意思を塗りつぶしていないか。誰かの可能性を信じ、 その人の「失敗」さえも権利として尊重できるか。「巣立ち」とは、温かい場所から突き放すことではなく、 本人が自らの意思で羽ばたこうとしたとき、その空に不必要な障害物がない社会を整えることだと、 私たちは考えています。
「つたえるカード」——指さしで、気持ちを伝える
意思決定支援の考え方から、ひとつの小さな道具が生まれました。仮称「つたえるカード」は、 スマホの画面に並んだカードを指さすことで、そのときの気持ちや体調、困りごとを伝えられる 無料のアプリです。
「分かる形で選択肢を見せる(意思形成の支援)」と「指させる(意思表明の支援)」を、 その場ですぐ使える形にしました。入力したことはすべて端末の中だけに残り、 アカウント登録もログインもいりません。