「便利ですよ」「みんな使ってますよ」と言われるほど、かえって腰が引ける——。AIの話題には、そういうところがありますよね。
先に結論を言ってしまうと、この記事は 「怖がらなくていいですよ」と説得する記事ではありません。「怖い」という感覚は、新しい道具に対するまっとうな反応です。電子レンジも、ATMも、スマホ決済も、出てきたばかりの頃は「なんだか怖い」と言われていました。怖さを感じる人は、慎重で、道具を軽く見ていない人です。
ただ、「なんだか怖い」の なんだか のままだと、ずっと動けません。そこで今回は、その怖さの中身をひとつずつ取り出して、机の上に並べてみます。並べてみると、そのままで大丈夫なものと、気をつけ方さえ知ればいいものに、きれいに分かれるんです。
正直に言うと……周りが使い始めているのは知ってるんです。でも、なんだか怖くて。何が怖いのかと聞かれると、うまく言えないんですけど。
その感覚、大事にしてください。無理に打ち消す必要はありません。ただ、「なんだか」のままにしておくのは、もったいない。何が怖いのか、一緒に並べてみませんか。名前がつくと、怖さはずいぶん扱いやすくなりますよ。
怖さ① 何か、こわしてしまいそう
→ だいじょうぶ、に仕分けられます。
パソコンが苦手な方の怖さの正体は、たいていこれです。「変なボタンを押したら、取り返しのつかないことになるんじゃないか」。
AIとの会話(チャット)に限っていえば、何を打っても壊れません。誤字だらけでも、途中で送ってしまっても、意味の通らない文章でも、AIは怒らずに解釈しようとします。話しかけたせいで勝手にお金がかかることも、パソコンやスマホが故障することもありません。うまくいかなかったら、その会話を閉じて、新しく始めればいいだけ。やり直しがいくらでも利く、失敗の値段がゼロの練習場です。
家電にたとえるなら、AIチャットは「押す順番を間違えると危ない機械」ではなく、「何度こねても大丈夫な粘土」に近い道具です。
怖さ② まちがった答えを、信じてしまいそう
→ これは本物の怖さです。気をつければOK、に仕分けます。
ここは正直に書きます。AIは、まちがえます。 それも、堂々と、もっともらしい顔でまちがえることがあります。この連載を書いている私たちも、AIの答えをそのまま信じてはいません。
だからこの怖さへの答えは「AIは正確だから安心してください」では ありません。答えは、仕事の仕分けです。
- 答え合わせが必要な仕事 … 制度の数字、医療のこと、法律のこと、日付や金額。ここでAIの答えを鵜呑みにしてはいけません。AIは「調べるきっかけ」まで。
- まちがえても平気な仕事 … 文章の下書き、言い換え、アイデア出し、たたき台づくり。ここはAIの独壇場です。下書きが変でも、直せばいいだけですから。
そして大事なのは、最初は後者だけで十分ということ。「AIのまちがいを見抜けるか不安」という方は、そもそも見抜く必要のない仕事から始めればいいんです。
具体的な「確かめ方」は、AIは、自信満々にまちがえる ― “鵜呑みにしない”ための3つの確かめ方でくわしく紹介しています。
怖さ③ 変なことを聞いたら、はずかしい
→ だいじょうぶ、に仕分けられます。
「こんな初歩的なことを聞いたら笑われるんじゃないか」「講習で手を挙げて質問するのは苦手」——この気持ちがある方にこそ、お伝えしたいことがあります。
AIは、呆れません。急かしません。「さっきも言いましたよね」と言いません。同じ質問を、夜中に10回しても大丈夫です。人に教わるときについて回る、あの独特の気疲れ——相手の時間を取っている申し訳なさ、物わかりが悪いと思われる心配——が、AIとの間には存在しません。
つまり、こういうことです。人に聞くのが得意な人より、聞くのをためらいがちな人のほうが、実はAIの恩恵が大きい。遠慮の要らない相手が、初めて現れたのですから。
(なお、仕事の情報や利用者さんの情報を入れるときの注意は、AIに話していいこと、いけないこと ― “個人情報”の線引きは、これだけ覚えてでしっかり扱っています。まずは、個人名や連絡先を入れない、とだけ覚えておけば大丈夫です。)
怖さ④ 仕事を、うばわれそう
→ 気をつければOK……というより、見きわめれば大丈夫、です。
福祉の仕事で考えてみます。利用者さんとの関係をつくること。表情や体調のちいさな変化に気づくこと。ご家族の気持ちを受けとめること。その場その場で判断すること。——この仕事の核心部分は、AIには持っていけません。
AIが持っていくのは、その周辺にある「書類の下書き」「文章の清書」「調べものの下ごしらえ」といった部分です。そして現場の実感として、そこが軽くなった分の時間は、たいてい 利用者さんと向き合う時間に戻ってきます。
道具に仕事を明け渡すのではなく、道具に任せる部分を自分で決める。この連載でくり返し書いてきた「主役は人間」は、そういう意味です。
怖さ⑤ たよりすぎて、自分で考えなくなりそう
→ 気をつければOK、に仕分けます。
これは、まじめな方ほど感じる怖さだと思います。実際、何でもかんでもAIに丸投げすれば、考える力は鈍るでしょう。電卓に頼りきると暗算が鈍るのと同じです。
でも、電卓が出てきたとき、私たちは「計算をやめた」のではなく、「検算や大きな計算は電卓、勘定の感覚は自分」と、自然に役割分担を覚えました。AIも同じです。この連載では、AIを「代わりに考えてくれる機械」ではなく、いつでも相談できる下書き係として扱ってきました。下書き係に相談しながら、最後に決めて、仕上げるのは自分。その形を守っているかぎり、考える力はむしろ鍛えられます。相談相手がいると、人は考えを言葉にするようになりますから。
はじめの一歩は、仕事から遠いところで
ここまで読んで「じゃあ、ちょっとだけ」と思った方のために、失敗のしようがない練習用の質問を3つ置いておきます。どれも仕事とは無関係、まちがえられても誰も困らないお願いです。コピーして、そのまま使ってください。
答えが気に入らなければ「もっと簡単に」「他の案も」と返してみてください。このやり取りこそが、AIの操作のすべてです。
ひとこと: 怖さは、消さなくていいんです。何が怖いのかに名前がつけば、怖さは「近づかない理由」から「上手につきあうための注意書き」に変わります。道具を怖がれる人は、道具を正しく扱える人です。
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