新人さんの電話応対、初めての見学対応、ちょっと言いにくいことを伝える面談——。「本番の前に練習したい。でも、練習に付き合ってくれる相手がいない」。福祉の現場に限らず、よくある悩みですよね。
今回は、AIのちょっと意外な使い方です。ふだん私たちはAIを 「質問に答えてくれる人」 として使っています。でも実は、「◯◯の役を演じて」とお願いすると、その人になりきって“相手役”をやってくれるんです。AIをよく使っている人でも、案外知らない使い方。さっそく聞いてみました。
電話応対が苦手な新人さんがいて…。練習に付き合ってあげたいんだけど、こちらもなかなか時間が取れなくて。
それなら、私が相手役をやりましょうか? 「見学を考えているご家族役」「問い合わせの電話をかけてきた人役」など、役柄と場面を決めてもらえば、その人になりきって練習にお付き合いします。終わったら、応対の良かった点と改善点の講評もできますよ。
えっ、演技までしてくれるの?
します! しかも相手はAIなので、何度失敗しても大丈夫。夜中でも、通勤中でも、納得いくまで付き合います。
AIは「答える人」だけじゃない
ポイントは、発想の切りかえです。
- いつもの使い方 … こちらが聞く → AIが答える
- 今回の使い方 … 役柄をお願いする → AIが“その人”として話しかけてくる → こちらが応対の練習をする
台本はいりません。AIはこちらの返事に合わせて、その場その場で自然に会話を続けてくれます。相手が人間だと「忙しいのに悪いな」「失敗したら恥ずかしいな」がつきまといますが、AIならその心配はゼロ。失敗しても誰も傷つかない練習場です。
やってみよう ― 電話応対の練習
お願いのしかたは、これだけです。①あなたの役 ②AIの役柄 ③場面 ④終わったら講評、の4点を伝えます。
すると、こんなふうに“演技”が始まります。
(家族役)あの……息子の見学をお願いしたくてお電話しました。ただ、うちの子は初めての場所がとても苦手で……。もし見学の日に不安定になってしまったら、どうなりますか? 途中で帰ってもいいんでしょうか……。
(さあ、あなたなら何と答えますか?)
こちらが答えれば、AIはそれを受けてさらに続けてきます。ひととおり終わって「練習終了。講評をお願いします」と言えば、「安心感のある相づちが良かった」「料金の説明は先に結論から言うと伝わりやすい」 のように、具体的にふり返ってくれます。
「もう一回最初から」「今度はもっと厳しめの設定で」も、ひとこと頼むだけ。難易度を自由に調節できる練習相手は、なかなかいません。
上級編 ― “文句ばかりの電話”に備える
基本に慣れたら、いちばん気の重い場面——厳しい苦情の電話にも、AIで備えられます。コツは、相手役の設定だけでなく、自分の応対の「目標」まで決めてからお願いすること。ただ言い返す練習ではなく、「聴く・整理する・つなぐ」の練習にするためです。
始めると、なかなかの迫力で来ます。
(お怒りの方役)あのねえ、この話、先週もお電話しましたよね? それなのに、また同じことになってるじゃないですか。おたくは一体、どういう管理をしてるんですか!
(深呼吸して……さあ、どう受け止めますか?)
上級編ならではの使い方も、いくつかあります。
- 難易度を段階で注文する … 「レベル1=不満はあるが穏やかな方」から「レベル3=かなり感情的な方」まで、と最初に決めておき、少しずつ上げていく。
- 途中で“先生”に戻ってもらう … 「一旦ストップ。今の私の言い方は、火に油を注いでいない?」と聞くと、演技を中断してその場で助言してくれます。
- 良い例と悪い例を並べてもらう … 講評のあとに「怒りがしずまる言い方と、逆なでしてしまう言い方を、対比で見せて」と頼むと、違いがよく分かります。
忘れないでほしいこと: 現実の激しい苦情や理不尽な要求は、職員個人の“話し方の上手さ”だけで解決するものではありません。一人で抱え込まず、記録を残し、上司や組織で対応するのが大原則です。AIとの練習は、最初の応対を落ち着いて行い、適切に組織へ“つなぐ”ためのもの——そう考えてください。
こんな練習にも使えます
- 新人さんの電話・窓口応対 … まずやさしい設定から始めて、少しずつ難しく。独り立ち前の“場数の下ごしらえ”に。
- 見学・実習の受け入れ対応 … 想定される質問をひととおり体験しておく。
- 気の重い面談の予行演習 … 言いにくいことをどう切り出すか、AI相手に何パターンか試してから本番へ。
- 会議・プレゼンの想定問答 … 作った企画書を見せて「この企画に、意地悪な質問を5つぶつけて」。会議前に穴をふさげます。
- 採用面接の練習 … 面接官役をやってもらうことも、逆に応募者役をやってもらって面接する側の練習も。
「意地悪な質問をして」なんて頼み方、アリなんだ…!
大アリです。ふだんの私はつい応援したくなってしまうので、「あえて厳しく」「反対の立場から」とお願いされたほうが、本番前の点検には役立つんですよ。
うまくいくコツ
- 役柄は具体的に … 「お客さん役」より「初めての電話で、不安が強く、質問が多いお母さん役」。具体的なほど、演技も本物に近づきます。
- レベルを注文する … 「まずはやさしめで」「次は少し困った設定で」。相手の難易度を選べるのはAI練習ならでは。
- 途中で止めてOK … 「一旦ストップ。今の質問、どう答えるのが良かった?」と、練習の途中で“先生”に戻ってもらうこともできます。
- 最後に講評を頼む … 「良かった点と改善点を3つずつ」と数を指定すると、ふり返りやすくなります。
- 声で練習するともっと本番に近い … スマホのAIアプリの音声会話機能を使えば、実際に“話す”練習になります。電話応対の練習には特におすすめです。
気をつけたいこと
とても便利ですが、福祉の現場では次の点を忘れずに。
①実在の方を“再現”しない:実際の利用者さんやご家族の名前・事情をAIに教えて「あの人の役をやって」とするのは避けてください。個人情報の問題はもちろん、本物の方をAIで置きかえてしまうこと自体が支援者として不誠実です。練習は、かならず架空の設定で。実際にあった出来事をもとに練習したいときも、個人が分かる部分は設定を変えてからにしましょう。
- ②AIの講評は“ひとつの意見” … 応対の正解は、事業所の方針やマニュアル、先輩の助言のほうが優先です。AIのふり返りは参考として使ってください。
- ③練習は練習 … 本物の方の気持ちは、AIの演技よりずっと複雑です。AIとの練習は自信をつける“下ごしらえ”。本番では、目の前の方の言葉にまっすぐ向き合うことを大切に。
ひとこと: AIのいちばん良いところは、知識が豊富なことよりも、**「何度失敗しても嫌な顔ひとつしない」**ことかもしれません。練習相手を頼むのに、遠慮はいりません。
「こんなこと、パソコンやAIでできる?」というギモンがあれば、お問い合わせフォームからぜひ教えてください。次の「教えてAIさん」で取り上げるかもしれません。