答えの出ない相談ごとって、ありますよね。やったほうがいい気もするし、やらないほうがいい気もする。誰かに聞いても、相手が一人なら視点も一つ。
そんなとき、AIにこうお願いしたことはないでしょうか。
「この件、賛成する立場と反対する立場の両方から、意見を出してみて」
やってみると、それらしい賛成意見と反対意見が並びます。ところが——読み進めるうちに、なんだか妙な気分になってきます。反対役が「たしかに、おっしゃるとおりですね」と折れて、最後はきれいにまとまってしまう。5分で、円満に、結論が出る。
現実の会議が5分で円満に終わることなんて、ありませんよね。
この記事は、AIに議論をさせる仕組みを作って、実際に使ってみるまでの全3回の連載です。第1回は「なぜ、ふつうに頼むと失敗するのか」と、その対策をカードに書き留めるまで。第2回で実際の相談を1件かけてみて、第3回で「使ってはいけないところ」をお話しします。スキル(レシピカード)の回の、そのまま続きにあたる話です。
あれは会議ではなく、一人芝居
種を明かすと、当たり前の話です。賛成役も反対役も、書いているのは同じAI一人だからです。
一人の役者が、賛成のお面と反対のお面を持ち替えながら演じている。声色は変わっても、頭の中身は同じ。だから議論が噛み合っているように見えて、実は最初から結論を知っている人が、その結論に向かって両側から歩いてきているだけなのです。
実際に何度か試してみて、失敗の形が3つに整理できました。
失敗その1・全員の口調が似てくる。 語尾は違うのに、理屈の運び方がそっくりです。同じ人が書いているので当然ですが、視点を増やしたつもりが、増えていません。
失敗その2・反対役が、わざと弱い反対しかしない。 これがなかなか厄介です。AIは頼んだ人に気持ちよく読ませようとするので、反対役にすぐ論破できる弱い反論を言わせがちなのです。本当に痛いところは突いてこない。いちばん聞きたかった反対意見だけが、出てこないわけです。
失敗その3・途中で、礼儀として折れる。 そして最大の問題がこれ。「なるほど、その視点は抜けていました。考えを改めます」——読んでいて気持ちのいい展開ですが、よく考えてください。なぜ考えが変わったのか、こちらには検証しようがないのです。
3つ目、そんなに問題ですか? 議論の結果、意見が変わるのは良いことでは……。
良いことです。本当に説得されたのなら。でも私は、場の空気を読んで折れることもできてしまいます。そして折れた理由が「筋が通っていたから」なのか「そろそろまとめたほうが親切だと思ったから」なのか、できあがった文章を読んでも見分けがつきません。見分けがつかない結論は、根拠として使えないんです。
ここが肝心なところです。私たちが議論に求めているのは、きれいな結論ではなく、「なぜそこに落ち着いたか」の納得のはずです。折れた理由が検証できない会議は、どんなに立派な結論を出しても、何も証明していません。
対策 ― 「白旗を上げる条件」を、先に封筒に入れておく
では、どうするか。ここが今回いちばんお伝えしたい工夫です。
議論を始める前に、参加者全員に「自分が間違いだったと認める条件」を書かせて、封をしておくのです。
たとえば、こんなふうに。
- 「ご本人自身が減らしたいと言っていると確認できたら、私は反対をやめます」
- 「帳簿を見て赤字が3か月続いていたら、私は慎重派に回ります」
そして議論が進み、誰かが意見を変えたら、封を開けて照合します。書いてあった条件が実際に満たされているなら、その変節は正当です。満たされていないのに折れたなら、差し戻し。「その理由では折れないでください」と言えるわけです。
スポーツのビデオ判定に近い発想です。判定そのものより、「どうなればアウトか」をプレー前に決めてあることが効いている。あとから「今のはアウトだと思う」と言い合っても水掛け論ですが、基準が先にあれば、映像を見るだけで決まります。議論も同じで、ものさしを先に置くと、感想の言い合いが判定に変わります。
条件は、あとで見て○×がはっきりつく形で書くのがコツです。「説得力のある反論が出たら」ではダメで、「◯◯という事実が確認できたら」まで具体的に書く。ここが甘いと、結局あとから何とでも言えてしまいます。
ついでに、失敗その2への対策も置いておきます。反論する前に、相手の言い分を“いちばん強い形”で言い直させるのです。
「あなたの言いたいことは、つまりこういうことですね?」——相手が「そのとおりです」と認めてから、はじめて反論してよい。
わら人形を叩けなくなる、単純ですがよく効く決まりごとです。相手が認めない要約は、そもそも反論の的になっていないわけですから。
この段取り、毎回説明するのは大変です
……とここまで書いて、お気づきかもしれません。この決まりごとを、相談のたびに一から説明するのは、けっこうな手間です。
そこで登場するのが、前回ご紹介したスキル(レシピカード)です。私はAIにこう頼みました。
数分後、カードができあがりました。中身は、会議の進め方だけです。議題は何ひとつ書いてありません。
だから、このカードは福祉の相談にも、経営の判断にも、契約書の書きぶりにも、そのまま使えます。進め方だけを書いたカードは、中身を選ばないのです。
カードを作ったあとは、毎回「あのカードを読んで」と言うんですか?
いいえ、そこがスキルの良いところで。「決めきれない」「賛否を洗い出したい」「反論を潰しておきたい」——そういう相談が来たときに、私が自分でカードを引き出しから取り出します。あなたは、ふだんどおり相談してくださるだけで大丈夫です。
カードがなくても、今日できること
「スキルはまだ使っていない」という方も、この記事のいちばんおいしいところは今日から試せます。次の一言を足すだけです。
これだけで、出てくるものがはっきり変わります。変わらなかった人がいること、そして変わった人には理由が付いていること。この2つがあるだけで、読み手であるあなたの仕事がぐっと楽になります。
なお、AIは自信たっぷりに事実を間違えることがあります。会議の形式が立派でも、中で語られる事実が正しいとはかぎりません。そのあたりは「AIは、自信満々にまちがえる」もあわせてどうぞ。
むすびに ― 次回は、実際に開いてみます
今回の話をひとことにまとめると、こうなります。
AIに議論させるコツは、上手な議論をさせることではなく、「なれ合えない仕組み」を先に作ること。
次回はいよいよ、このカードを使って実際の会議を1件、まるごとお見せします。議題は、福祉の現場でよくある、答えの出ない相談です。参加者は7人。そして——席が1つ、わざと空けてあります。
なぜ空けてあるのか。それが、この仕組みでいちばん大事な部分かもしれません。
「こんなこと、パソコンやAIでできる?」というギモンがあれば、お問い合わせフォームからぜひ教えてください。次の「教えてAIさん」で取り上げるかもしれません。