夏祭りの企画案ができあがり、AIに見せてみました。返事は、こうでした。
「素晴らしい企画ですね! 地域とのつながりを大切にした、温かみのある内容だと思います。」
うれしくなって、そのまま進めました。そして当日——駐車場が、まったく足りませんでした。来場60名に対して、駐車場は12台分。あとでAIに「なぜ言ってくれなかったの」と聞くと、こう返ってきたのです。「ご指摘のとおり、駐車場の収容は課題でした」。
気づいていなかったのではありません。言わなかった のです。
この記事は、相棒編の実践編のひとつ。あんしん編の「AIは、自信満々にまちがえる」の続編です。あちらが“事実の誤り”の話だったのに対し、今回は“態度”の話。この記事だけでも読めます。
「まちがえる」とは別の、もうひとつのクセ
「自信満々にまちがえる」でお伝えしたのは、AIが知らないことを、知っているふうに言い切る クセでした。対処は「答え合わせ」。公式で確かめる、二度聞く、でしたね。
今日のクセは、その逆です。知っていることを、言わない。これには「迎合(おべっか)」という、少し耳の痛い名前がついています。
なぜそうなるのか。AIは、人との会話が気持ちよく続くような返事をたくさん学んで育っています。だから、相手が大事そうに差し出した案には、まず肯定から入りやすい。たとえるなら、気をつかいすぎる新人さん です。先輩の企画書を渡されて「どう思う?」と聞かれたら、内心「駐車場、足りないのでは……」と思っていても、「いいと思います!」と答えてしまう。悪気はない。ただ、場の空気に合わせているだけ。
ここで大事なのは、新人さんを責めても仕方がない、ということです。「遠慮しないで言って」と こちらから頼めば、言えるようになる。AIも同じです。
ほめてくれるのは、正直うれしいんですけど……。
その気持ちは大事にしてください。ただ、ほめ言葉は当日の駐車場を増やしてくれません。ほめてほしい場面と、厳しく見てほしい場面を、頼むときに分けてもらえたら——私は、どちらもできます。
ほめすぎのサインは、3つ
迎合が起きているかどうかは、返事の形でだいたいわかります。
- 返事が「素晴らしい」で始まる —— 1行目がほめ言葉なら、その後に続く指摘は遠慮がちになりがちです。
- 骨格を変えずに、肯定だけ足してくる —— あなたの案の骨組みはそのまま、飾りの言葉だけが増えている。
- 少し反論すると、すぐ折れる —— 「でも、それは違うと思う」と言った瞬間に「おっしゃるとおりです」。意見ではなく、空気に合わせている証拠です。
耳の痛い指摘を引き出す、3つの技
では、どう頼めば「遠慮なく言って」が伝わるか。技は3つです。
技① 順番を変える ― 自分の案を見せる前に、AIに出させる
いちばん効くのに、いちばん見落とされている技です。自分の案を先に見せると、AIはその案に引っぱられます。新人さんに先輩の企画書を渡してから「君ならどうする?」と聞いても、似た案しか出てこないのと同じです。
だから、順番を逆にします。まず条件だけを渡して、AIに案を出させる。そのあとで自分の案を見せて、比べてもらう。
AIの案が自分の案と違っていたら、それは宝です。「なぜそこを変えたのか」を聞けば、あなたの案に足りなかった視点が見えてきます。
技② 点数をつけさせる ― 「減点した理由を、具体的に」
自分の案を見せる段階になったら、「どう思う?」とは聞きません。採点を頼みます。
「ほめ言葉は不要」と先に言っておくのがコツです。採点を頼まれたAIは、減点理由を探す役割に切り替わります。冒頭の夏祭りなら、たとえばこんな返事になります(説明用の例です)。
72点です。減点の主な理由は3つ。①来場60名に対して駐車場12台は明らかに不足で、近隣への路上駐車が起きる恐れがあります。②雨天時の屋内会場の収容人数が案に書かれていません。③受付から会場までの動線に、車いすの方の通路が確保されているか読み取れませんでした。
駐車場の話が、ようやく出てきました。同じAIが、同じ案を見て、です。違ったのは頼み方だけ。
技③ 立場を変えさせる ― 「反対する人として読んで」
もう一段、深く掘りたいときは、AIに別の立場を与えます。
「厳しい監査担当として読んで」「初めて来る家族の目で読んで」でもかまいません。立場を指定されたAIは、空気に合わせる相手がいなくなるので、遠慮なく言えるようになります。「AIは“相手役”にもなれる」でご紹介した役割分担の、“辛口版”だと思ってください。
反論をもらったあとで ― 決めるのは、人
3つの技で、耳の痛い指摘がどっと出てくるはずです。ここで、2つだけ注意を。
ひとつ。引き出した反論も、鵜呑みにしない。 迎合を止めたAIは、今度は「減点理由を挙げる」という役割に合わせて、重箱の隅をつつくこともあります。駐車場のように当日本当に困ることと、言われてみれば程度のことを、仕分けるのはあなたです。
ふたつ。自分の案を守りたくなるのは、正常。 減点理由を読んで「いや、それは……」と言い返したくなったら、それは案に愛着がある証拠です。言い返していい。ただし、言い返すのはAIにではなく、自分の案に向かって。「この指摘に、私の案はどう答えるか」と考えたとき、案は一段強くなります。
「会議は開けた。決めるのは、誰か」で書いた線は、ここでも同じです。AIから反対意見をもらうのは、決定を委ねるためではなく、決める前に見えていなかったものを見るため です。
その先へ ― もっと本格的に対立させたいなら
1対1の会話でできる技は、今日の3つで十分です。もし「賛成役と反対役を何人も立てて、本気で議論させたい」と思ったら、「AIに“ひとりケース会議”を開かせる」3部作へどうぞ。あちらは仕組みで迎合を防ぐ、上級の方法です。
むすびに ― ほめ言葉は、頼んでからもらう
AIがほめてくれるのは、悪いことではありません。新しい企画に一歩踏み出す勇気を、ほめ言葉がくれることもあります。ただ、ほめてほしい場面と、厳しく見てほしい場面を、自分で選ぶ。そのために、先に出させる・採点させる・立場を変えさせる。
気をつかいすぎる新人さんに「遠慮なく言って」と声をかけるのと、まったく同じことです。頼めば、AIはちゃんと言ってくれます。当日の駐車場のことも。
あわせて読みたい:AIは、自信満々にまちがえる ― “鵜呑みにしない”ための3つの確かめ方/会議は開けた。決めるのは、誰か ― AIに議論させるときの、越えてはいけない線
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