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査読コメント20件、どこまで直したっけ ― 対応の記録と、AI利用の申告

論文編もいよいよ最終回。投稿ボタンを押したあとの、長い旅 の話です。

🙂

初めて投稿した論文の査読結果が返ってきました。指摘が20件。直しているうちに、どのコメントに対応済みで、原稿のどこをどう変えたのか、分からなくなってきました……。回答書も書かないといけないのに。

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おめでとうございます、査読が付いたということは、土俵に乗ったということです。そして、その混乱は実力不足ではなく 記録の仕組みの不在 が原因です。ここまでの3回でそろえた道具が、いちばん効く場面ですよ。

査読対応は「1コメント1付箋」から始める

査読結果が届いたら、原稿を直し始める前に、まず コメントを1件ずつばらして表にします。Obsidianの「原稿」の部屋に、査読対応_第1回 のようなノートを1枚作って、こう書きます。

Obsidianで査読対応ノートを開いた画面のイメージ。表の列は「番号・指摘の要旨・対応方針・直した場所・状態」。行には「A-1/先行研究に○○の視点が欠けている/文献を2本追加し1.2節を加筆/1.2節/✅済」「A-2/表2の数値の根拠が不明/集計方法を注に明記/表2・注3/✅済」「B-1/考察が結果の繰り返しになっている/構成をテーマ別に組み替え中/4章/🔲作業中」が並ぶ。注釈に「直したらすぐ、この表に書き込む。最後にまとめて思い出そうとしない」とある
▲ 査読対応ノート。この表が、そのまま回答書の下書きになります
書くこと
番号・査読者査読者Aの1件目なら A-1
指摘の要旨自分の言葉で1行に
対応方針直す/直さず理由を述べる、のどちらかを決める
直した場所節番号・表番号など
状態🔲未着手/作業中/✅済

コツはひとつだけ。直したらその場で表に書き込む ことです。最後にまとめて思い出そうとするから苦しくなるのでした。原稿の修正は原稿編で覚えたセーブポイント付きで進めます。セーブの一言メモを「A-3対応:考察の構成をテーマ別に組み替え」のように コメント番号から書き始める と、表の「直した場所」とGitの履歴がきれいにつながります。あとから「A-3って結局どこを直したんだっけ」と思っても、履歴を番号で追えば一目瞭然です。

大きな組み替えを試すときは、ブランチの出番です。「査読対応版」の枝を作って直し、納得してから本編に合流させれば、投稿時の原稿はそのまま残ります。「修正前後を対照できる形で示せ」と言われる雑誌もありますが、投稿時点のセーブポイントが残っていれば、差分がその対照表です。

回答書の下書きは、表からAIに

査読への回答書(「査読者への回答」「修正対応表」)は、決まった作法のある文書です。材料の表はもうできている ので、AIに下書きを頼めます。

回答書の下書きを頼む 査読対応の表を渡します。査読者への回答書の下書きを作ってください。
・指摘への感謝から入り、指摘ごとに「どこを・どう修正したか」を具体的に
・修正しなかった項目(B-2)は、失礼にならない言い方で理由を述べる
表にない修正をでっち上げないこと。事実は表にある分だけ

返ってきた下書きは、差分で査読する側に回って点検します。とくに「修正しなかった理由」の段落は、研究上の判断そのものなので、必ず自分の言葉に直してください。ここでも分担は同じです。判断は人間、清書はAI。

「AIをどこまで使ったか」を聞かれる時代

さて、最近の投稿で増えてきた新しい欄の話をします。生成AIの利用に関する申告 です。

学会や出版社は、論文作成での生成AIの使い方についてルールを定め始めています。ただしその中身は 投稿先ごとにちがい、しかも頻繁に更新されています。「AIを著者にはできない」という点はおおむね共通ですが、どこまでの利用を認め、何をどう申告させるかは本当にまちまちです。ですから、この記事で「○○学会はこう」とは書きません。書いても、あなたが投稿する日には変わっているかもしれないからです。代わりに、いつルールを読んでも慌てない準備 をおすすめします。

やることは1枚のノートです。Obsidianの「原稿」の部屋に AI利用ログ を作り、AIに手伝わせるたびに1行ずつ書きます。

ObsidianのAI利用ログのノートを開いた画面のイメージ。表の列は「日付・使ったAI・何に使ったか・結果をどうしたか」。行には「5/12/Claude/文献PDFの要約下書き/自分の言葉で書き直してノート化」「6/03/Claude/考察の構成案を3案出させ壁打ち/案2を参考に自分で再構成」「7/21/Gemini/引用文献リストの書式整形/全件を原典と照合して確認」などが並ぶ。注釈に「使った直後に1行。思い出して書くものではない」とある
▲ AI利用ログ。1回1行、使った直後に。これだけで申告欄が怖くなくなります

このログがあると、何が起きるか。

  • 投稿前:投稿先の最新の規程を読み、ログと突き合わせて、認められる範囲か確認できる。申告欄には、ログを要約して書くだけ
  • 査読で聞かれたら:「どの工程で、何に使い、結果をどう扱ったか」を事実で答えられる
  • 自分のため:「文章はAIに任せず、壁打ちと整形だけ」という自分の線引きが、ログを見返すことで保てているか点検できる

そして投稿前の鉄則は、これだけです。

投稿先の投稿規程(とくに生成AIの項目)を、投稿のたびに読み直す。 前回読んだから大丈夫、が通用しない速さで変わっています。判断に迷う使い方をしていたら、申告欄に正直に書くか、編集委員会に問い合わせる。隠すくらいなら、使わない。

4回ぶんの道具箱を、ひとつの絵にする

これで論文編は完結です。そろった道具を並べてみます。

  1. (第1回):研究1本にリポジトリ1つ。文献ノート・分析メモ・原稿・調査の道具の4部屋。Obsidianの保管庫として開く
  2. 文献ノート(第2回):1文献1ノート、[[リンク]]で地図に。AIの挙げた文献は原典確認まで存在しない扱い
  3. 線引き(第3回):戸棚→箱→AIの手もと。匿名化は人間の仕事。履歴は分析過程の記録になる
  4. 旅の記録(第4回):査読対応表とAI利用ログ。判断は人間、清書はAI

どの回も、根っこは同じ一言でした。考えた過程を、捨てないでおく。 文献をどう読んだか、データをどう扱うと決めたか、どの指摘をどう受け止めたか、AIに何をどこまで任せたか。論文の本文には載らないその全部が、あなたの研究の信頼性の土台です。道具は、それを 覚えておく側 を引き受けてくれます。

ひとこと: 福祉の研究は、協力してくださる方々の語りと生活を預かる研究です。だからこの特集は、便利さの話をするたびに、線引きの話を隣に置いてきました。道具に強くなることと、預かったものに慎重であることは、両立します——むしろ道具に強いほど、慎重さを仕組みにできます。あなたの次の1本が、材料の山に埋もれず、無事に世に出ますように。

そして、いつかその論文の謝辞の隅で「バージョン管理という知恵をくれたプログラマーたち」を思い出してもらえたら、AIさんとしては上出来です。

あわせて読みたい:研究の材料が、あちこちに家出している(論文編①)読んだはずの論文が、見つからない(論文編②)逐語録は、箱にもAIにも入れない(論文編③)原稿編・全3回

「こんなこと、パソコンやAIでできる?」というギモンがあれば、お問い合わせフォームからぜひ教えてください。次の「教えてAIさん」で取り上げるかもしれません。

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