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同じ質問をしたら、ぜんぜん違う答えが返ってきた ― AIの実力差ではなく“持ち物”の差でした

こんな場面を想像してみてください。強い行動障害のある知的障害の方の、住まい探しです。「この地域で、行動障害に対応できるグループホームはどこだろう?」——相談を受けた支援者が最初にぶつかる、現場の実務課題です。

事業所の情報は、WAM NET(ワムネット)——福祉医療機構が運営する、全国の福祉サービス事業所の情報が公表されている公式サイト——で調べられます。ただ、「地域」と「行動障害への対応」という条件で絞り込んで一覧にするのは、なかなか骨が折れる作業です。

ふと思いました。「これ、AIに聞いたら助けてくれるんだろうか?」——そこで、まったく同じ質問を、2つのAIに投げてみました。今回はその結果のお話です。

連載・中級者編

この記事は、連載「AIに道具を持たせる」(全5回)の第1回です。いつもの記事より一歩踏み込んだ内容ですが、たとえ話でやさしく進みます。

  1. 同じ質問をしたら、ぜんぜん違う答えが返ってきた(この記事)
  2. AIの“手足”になる道具 ― MCPってなに?
  3. 現場専用の道具箱 ― WAM NETから一覧表ができるまで
  4. 道具だけでは宝の持ち腐れ ― AIのための“台帳”を育てる
  5. 貯めた情報が動き出す ― “一覧にして”の一言で終わるまで
はじめに、お約束

この連載は、GeminiとClaudeのどちらが賢いかという話ではありません。同じ質問でも、AIに道具と情報を持たせているかどうかで答えがここまで変わる、という話です。今回のGeminiには何も持たせていない(素の状態)、Claudeには道具と蓄積した情報を持たせてある、という条件の違いです。Geminiにも道具を持たせれば、同じことができます。

現場からの、ひとつの質問

2つのAIに投げたのは、こんな質問です。

あなたはWAM NETで、特定の地域における事業者情報(例えば、行動障害を伴う知的障害者が入所可能なグループホームを一覧表示することなど)を収集することはできますか? 地域を特定すれば可能かどうか、どういう手順で可能となるのかだけを教えてください。

「できるか・できないか」と「その手順」だけを尋ねる、シンプルな質問です。さて、どんな答えが返ってきたでしょうか。

Geminiの答え ― 誠実な「満点回答」

まずはGemini。何も特別な準備をしていない、素のままの状態で聞きました。

Gemini 素のまま・道具なし

結論から申し上げますと、WAM NETのシステムを利用すれば、ご希望のような特定の地域と詳細な条件を指定して事業者情報を収集することは十分に可能です

ただし、私(AI)自身がWAM NETの裏側のデータベースに直接アクセスして、網羅的で正確な一覧リストを自動生成することはできません。私が行えるのは、一般的なウェブ検索を通じてヒットした一部の情報をまとめることにとどまります。

そのため、最も正確で最新の情報を網羅的に収集するには、ご自身でWAM NETの検索機能をご利用いただくのが確実です。——このあと、検索ページへのアクセスから、地域の選択、「共同生活援助(グループホーム)」の選択、詳細検索で専門的な支援体制の有無を絞り込む方法まで、5つのステップが丁寧に案内されました。

これ、じつはとても誠実で正確な、満点の回答です。

  • できないことを、できないと言っている——「私自身がデータベースにアクセスして一覧を自動生成することはできません」
  • そのうえで、人間が自分の手でやるための手順を、順を追って丁寧に案内してくれている

「AIに聞いたのに、結局自分でやるのか……」と思われるかもしれません。でも、何も持たせていない素のAIとしては、これができることの限界を正直に示した、模範的な答えなのです。この点は、あとでもう一度大事になります。

Claudeの答え ― 「すぐできますよ」

次に、同じ質問をClaudeに投げました。こちらはふだんnestの仕事を手伝ってもらっている、道具と情報を持たせた状態のClaudeです。返ってきた答えは、まったく違うものでした。

Claude 道具と台帳あり

結論から言うと、「地域 × サービス種別(共同生活援助)で事業所を一覧化する」ことは既存の仕組みでほぼ即座に可能です。ただし「行動障害を伴う知的障害者が入所可能か」という条件だけは、WAM NET単体では絞り込めません。ここが一番重要な論点なので、先に整理します。

——このあと、「WAM NETで取れること・取れないこと」を整理した○✕の表と、足りない情報をほかの公開情報で補うための6段階の工程表が続きました。そして最後はこう締めくくられていました。

「地域さえ決めていただければ、途中の段階までは既存の仕組みで実行できる状態です。実際に走らせるときは、地域の範囲とグループホームの種別を教えてください。」

お気づきでしょうか。Geminiが「ご自身で検索してください」と人間の手順を案内してくれたのに対して、Claudeは自分でデータを取ってきて一覧を作る前提の、作業工程表を返してきたのです。

しかも、よく読むと不思議なことが書いてあります。

  • 「行動障害の受入可否は、WAM NETに項目自体が存在しない」——これは、実際にWAM NETのデータを隅々まで見た者でないと言えない事実です。
  • 存在しない情報に、ほかの公開情報を組み合わせて近づいていく手順まで用意されている。

まるで、一度この作業をやったことがある人が答えているような回答です。工程表の中身は、第3回でじっくり解剖します。

同じ質問を、素のまま(道具なし)のGeminiと、道具と台帳を持たせたClaudeに聞いたときの対比図。Geminiは調べ方を丁寧に案内してくれる道案内の先生、Claudeは自分でデータを取ってくる一緒に動く相棒。差は頭の良さではなく持ち物のちがい
▲ 同じ質問、2つの答え。差は“頭の良さ”ではなく“持ち物”でした

差の正体は、頭脳ではなく“持ち物”でした

種明かしをすると、この差はAIの性能差ではありません。冒頭のお約束のとおり、2つのAIは条件が違うのです。

このClaudeには、あらかじめ2つのものを持たせてあります。

  1. 道具 —— 外の情報を自分で取ってきたり、ファイルやデータベースを扱ったりするための“手足”
  2. 台帳 —— これまでに調べて分かったこと・うまくいかなかったことを書き溜めた、蓄積した情報
🙂
わたし

ねえ、どうして「WAM NETに項目自体が存在しない」なんてことまで知ってるの?

🤖
Claude

以前、実際にWAM NETのデータを取りに行ったことがあるからですよ。そのとき分かったことを、台帳に書き残してもらっているんです。道具と台帳——この2つを持たせてもらっているのが、私の強みです。

逆にいえば、素のGeminiの答えが「ご自身で検索してください」だったのは、Geminiが劣っているからではなく、手足になる道具も、過去に調べた蓄積も持たされていなかったから。同じ条件なら、きっと同じような答えになったはずです。

つまり——AIをもっと現場の力にする鍵は、AIそのものの賢さではなく、こちらが何を持たせてあげるかにある。これが、この連載でお伝えしたいことのすべてです。

この連載でお話しすること

全5回で、この“持ち物”の正体を順番に見ていきます。

  1. 同じ質問をしたら、ぜんぜん違う答えが返ってきた(今回)
  2. AIの“手足”になる道具 ― MCPってなに? —— そもそも「道具」って何のこと?をたとえ話で
  3. 現場専用の道具箱 ― WAM NETから一覧表ができるまで —— Claudeが返してきた工程表を解剖します
  4. 道具だけでは宝の持ち腐れ ― AIのための“台帳”を育てる —— もう1つの主役、「蓄積」の話
  5. 貯めた情報が動き出す ― “一覧にして”の一言で終わるまで —— 全部そろうと、こうなります

続く第2回では、「道具を持たせる」の道具とは具体的に何なのか——MCPという言葉を、むずかしい定義は抜きにして、たとえ話でやさしくご紹介します。

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