前回の記事(同じ質問をしたら、ぜんぜん違う答えが返ってきた)では、まったく同じ質問に対して、素のGeminiは「ご自身で検索する手順」を、道具と台帳を持たせたClaudeは「自分でデータを取ってくる工程表」を返してきた——という対比をご紹介しました。
差の正体は、AIの頭の良さではなく、持ち物。では、その持ち物の1つめ、道具とは具体的に何なのでしょうか。今回はその話です。
この記事は、連載「AIに道具を持たせる」(全5回)の第2回です。
- 同じ質問をしたら、ぜんぜん違う答えが返ってきた
- AIの“手足”になる道具 ― MCPってなに?(この記事)
- 現場専用の道具箱 ― WAM NETから一覧表ができるまで
- 道具だけでは宝の持ち腐れ ― AIのための“台帳”を育てる
- 貯めた情報が動き出す ― “一覧にして”の一言で終わるまで
AIは“電話口の、物知りな相談員”
素のAIを、たとえるなら——電話の向こうにいる、ものすごく物知りな相談員です。
制度のことも、パソコンの操作も、たいていのことは知っていて、聞けば何でも丁寧に教えてくれます。でも、電話の向こうにいるので、こちらの世界に手も足も出せません。あなたのパソコンの中のファイルは見えないし、WAM NETに代わりにアクセスして調べてくることもできない。だからどんなに親切でも、最後は「こういう手順で、ご自身で調べてくださいね」としか言えないのです。
第1回のGeminiの答えが、まさにこれでした。できないことをできないと言い、人間がやるための手順を丁寧に案内する——電話口の相談員としては満点の対応です。
AIってあんなに物知りなのに、どうして「ご自身で検索してください」になっちゃうの?
知識はあっても、手足がないからです。電話口からアドバイスはできても、代わりに手を動かすことができないんですよ。逆に言うと——手足さえ持たせてもらえれば、「私がやっておきますね」と言えるようになります。
その“手足”のつなぎ方に、名前がついています ― MCP
AIに手足を持たせる——そのための共通のつなぎ方(規格)に名前がついています。それが MCP です。
MCP(Model Context Protocol/モデル・コンテキスト・プロトコル)。むずかしそうな名前ですが、イメージは家電のコンセントです。コンセントの形が全国共通だから、どのメーカーの家電でも同じ差し込み口で使えますよね。MCPはそれのAI版——「AIに道具を差し込むときの、共通の差し込み口」だと思ってください。この規格に合った道具なら、AIに次々と持たせることができます。
大事なのは、規格の細かい仕組みではなく、AIには、あとから道具を差し込めるという事実です。差し込んだ瞬間から、AIは「話すだけの存在」から「手を動かせる存在」に変わります。
AIに持たせられる、3つの“手”
では、どんな道具(手)があるのか。ざっくり3種類に分けると見通しがよくなります。
- 外から情報を取ってくる手 —— Webページを見に行ったり、国や公的機関が公開しているデータを取ってきたりする手。
- 手元のファイルを扱う手 —— パソコンの中のExcelやPDFを読んだり、書き換えたり、新しく作ったりする手。
- 貯めた情報を出し入れする手 —— これまでに貯めてきた記録(台帳・データベース)から、必要なものを探して取り出す手。
第1回のClaudeの答えを思い出してください。「地域×サービス種別の一覧なら、ほぼ即座に可能です」——あの回答の裏側では、①の手でWAM NETの公開データを取ってきて、③の手で自分の台帳と突き合わせる段取りが組まれていました。3つの手が組み合わさって、初めてあの答えになるのです(その現場は次回じっくり見ます)。
身近な第一歩 ― まずは“手元のファイルを扱う手”から
「うちの現場には縁遠い話かも」と思われたかもしれません。でも、実はいちばん身近な道具は、もう手の届くところにあります。
たとえばパソコン版のClaudeやGeminiには、パソコンの中のフォルダや、ふだんお使いのサービス(Google ドライブなど)をAIにつなぐ公式の仕組みが用意されています。設定画面から対象を選んで許可するだけ——これも立派な「道具を持たせる」の第一歩です。
つないだフォルダに会議録のファイルを入れておいて、「今月の会議録、決まったことだけ箇条書きにして」とお願いする。コピー&貼り付けの往復なしで、AIが自分でファイルを開いて読んでくれます。「電話口の相談員」が、初めてこちらの机の上を見てくれる瞬間です。
設定の場所や名称はアプリの更新で変わることがあるので、迷ったらAI本人に「あなたにフォルダをつなぐには、どう設定すればいい?」と聞いてみてください。自分のことなので、ちゃんと案内できますよ。ひとつだけお願い——利用者さんの個人情報が入ったフォルダは、つなぐ前に事業所のルールを必ず確認してくださいね。
なお、①の「外から情報を取ってくる手」にも、拡張機能ひとつで試せる身近な入口があります。番外編としてご紹介していますので、あわせてどうぞ:ブラウザにAIが“住み込み”で働く ― Claude in Chrome をはじめよう
ただし、道具だけでは“あの答え”にならない
ここまでで、「道具=AIの手足」「MCP=その差し込み口」というところまで来ました。
でも、正直に言うと——道具を持たせただけでは、第1回のClaudeのような答えは返ってきません。あの答えのすごみは、道具そのものではなく、複数の道具が段取りよく連携して働いていたこと、そして「どこに何があるか・何が取れないか」を知ったうえで段取りが組まれていたことにあります。
次回は、その現場に踏み込みます。WAM NETから「行動障害に対応できるグループホームの一覧表」ができるまで——道具たちが連携して働く工程表を、1つずつ解剖します。