前回(AIの“手足”になる道具)は、「道具=AIの手足」「MCP=その差し込み口」という話をしました。今回はいよいよ、その道具たちが連携して働く現場を見に行きます。
お題は第1回と同じ、この質問です。
WAM NETで、特定の地域における事業者情報(例えば、行動障害を伴う知的障害者が入所可能なグループホームを一覧表示することなど)を収集することはできますか?
道具と台帳を持たせたClaudeは、これに「ほぼ即座に可能です」と答え、6段階の工程表を返してきました。その中身を、1つずつ解剖していきましょう。
この記事は、連載「AIに道具を持たせる」(全5回)の第3回です。
- 同じ質問をしたら、ぜんぜん違う答えが返ってきた
- AIの“手足”になる道具 ― MCPってなに?
- 現場専用の道具箱 ― WAM NETから一覧表ができるまで(この記事)
- 道具だけでは宝の持ち腐れ ― AIのための“台帳”を育てる
- 貯めた情報が動き出す ― “一覧にして”の一言で終わるまで
一覧表ができるまでの、6つの工程
Claudeの工程表を、図に起こすとこうなります。
- 地域を決める —— これは人間の仕事。「北九州市だけか、近郊も含めるか」を決めます。
- 事業所データを取ってくる —— WAM NETが公開しているオープンデータから、その地域のグループホーム(共同生活援助)を全件取得。ここまでで「地域内の一覧」は完成します。前回の①外から取ってくる手の出番です。
- 加算の届出と突き合わせる —— 自治体が公表しているExcel(体制届出の一覧)を取ってきて、事業所ごとに突合。②手元のファイルを扱う手の出番。これが後述の「肝②」です。
- 詳細ページで補いを入れる —— WAM NETの各事業所ページを見に行き、運営方針などの記述を補完(件数が多くなければ、の任意工程)。
- 現場の声を重ねる —— 貯めてきた記録——照会したときの反応や、実際の受入れの実績——を重ね合わせます。③台帳を出し入れする手の出番。
- 一覧表・関係図に出力する —— ExcelやHTMLの一覧、支援の関係図として出力します。
国や自治体・公的機関が、「誰でも自由に使ってよい」というルールつきで公開しているデータのこと。WAM NETも全国の障害福祉サービス事業所の基本情報(所在地・サービス種別・定員など)をオープンデータとして公開しています。人がブラウザで1件ずつ見る代わりに、道具を持ったAIならまとめて受け取って加工できます。
肝①|バラバラの情報をつなぐ鍵は、「事業所番号」
ここで、この工程表を支えている地味だけれど決定的な知識をご紹介します。
WAM NETのオープンデータ、自治体が公表する届出のExcel、詳細ページ、そして手元の記録——これらはバラバラの場所にある、バラバラの形の情報です。それでも1枚の一覧表にまとめられるのは、どの情報にも事業所番号という10桁の共通の番号が入っているからです。
指定を受けた事業所には、必ずこの番号が振られています。だから「番号が同じもの同士をくっつける」だけで、バラバラの公開情報が機械的に1本につながる——工程③や⑤の突き合わせは、すべてこの鍵で行われています。
肝②|公表されていない情報には、“足あと”から近づく
もう1つの肝は、そもそもの難題への答えです。第1回でClaudeはこう言っていました——「行動障害を伴う方の受入可否は、WAM NETに項目自体が存在しない」。
知りたいことが、どこにも公表されていない。ではあきらめるしかないのか——ここで効くのが、代理指標という考え方です。
グループホームには、重度障害者支援加算という加算があります。強度行動障害支援者養成研修——行動障害のある方への専門的な支援を学ぶ研修——を修了した職員の配置などが要件になっている加算で、届出の有無は自治体が公表しているExcelに載っています。
「受け入れられます」という直接の表明はどこにもない。でも、この加算を届け出ている事業所は、行動障害に対応する体制を整えているはず——雪の上の足あとから動物の居場所を推し量るように、公表されている“足あと”から知りたいことに近づくわけです。
なるほど……。でも、加算を届け出ていれば、本当に受け入れてもらえるの?
鋭いご指摘です。制度上の体制と、実際の受入れは別もの——だからこの工程表には、⑤「現場の声を重ねる」が入っているんですよ。その話は次回、じっくり。
汎用の道具と、“うちの現場のためだけ”の道具
ここまでの工程で働いていた道具のうち、「Webを見る手」「Excelを読む手」は市販品のような汎用の道具です。でも、「WAM NETのオープンデータからこの地域のグループホームを取ってきて、台帳に整理して仕舞う」という工程②の道具は、どこにも売っていません。
実はこれ、AI自身に作ってもらった、うちの現場のためだけの道具です。「こういう作業を毎回やりたいから、道具にして」とお願いすると、AIは自分が使う道具を自分で作れます。以前の記事で「AIに“AIへの指示書”を作ってもらった」というお話をしましたが、その道具版だと思ってください。
この記事の工程②で働いているのは、WAM NETのオープンデータを取得して事業所の台帳へ同期する自作の道具(wamnet-provider-sync と名づけています)です。台帳の器には、つながりを覚えるのが得意なデータベース(Neo4j)を使っています。——道具の名前は覚えなくて大丈夫です。「そういうものをAIと一緒に作れる」ことだけ、持ち帰ってください。
でも——道具だけでは、これは分かりません
これで工程表の解剖はおしまいです。ただ、最後に1つ、考えてみてほしいことがあります。
Claudeはなぜ、「行動障害の受入可否は、WAM NETに項目自体が存在しない」と知っていたのでしょう。なぜ「詳細ページのURLは、しばらくすると消える」なんてことまで踏まえて、段取りを組めたのでしょう。
どんなに良い道具を持たせても、道具だけでは、これは分かりません。
その答えが、持ち物のもう1つの主役——“台帳”=蓄積です。次回は、AIのために何をどう貯めておくのか、というお話です。