前回(現場専用の道具箱)の最後に、こんな問いを残しました。
Claudeはなぜ、「行動障害の受入可否は、WAM NETに項目自体が存在しない」と知っていたのでしょう。なぜ「詳細ページのURLは、しばらくすると消える」なんてことまで踏まえて、段取りを組めたのでしょう。——道具だけでは、これは分かりません。
今回はその答え合わせです。持ち物のもう1つの主役、“台帳”=蓄積の話をします。
この記事は、連載「AIに道具を持たせる」(全5回)の第4回です。
- 同じ質問をしたら、ぜんぜん違う答えが返ってきた
- AIの“手足”になる道具 ― MCPってなに?
- 現場専用の道具箱 ― WAM NETから一覧表ができるまで
- 道具だけでは宝の持ち腐れ ― AIのための“台帳”を育てる(この記事)
- 貯めた情報が動き出す ― “一覧にして”の一言で終わるまで
あの答えに滲んでいた、“経験”のあと
第1回のClaudeの回答を、もう一度よく見てみます。すると、その場の検索では絶対に出てこないものが、あちこちに滲んでいることに気づきます。
まず、回答に添えられていた「WAM NETで取れること・取れないこと」の○✕表。今回はその中身をお見せします。
| 欲しい条件 | オープンデータ | 詳細ページ |
|---|---|---|
| 地域(市区町村) | ○ | ○ |
| サービス種別(共同生活援助など) | ○ | ○ |
| 定員・所在地・連絡先 | ○ | ○ |
| 運営方針・対象障害の詳しい記述 | ✕ | △(記載があれば) |
| 行動障害のある方の受入可否 | ✕ | ✕(項目自体が存在しない) |
| 空き状況 | ✕ | ✕(実質更新されない) |
この表は、仕様書を読んで書けるものではありません。実際にデータを全部取ってきて、隅々まで確かめた者が書き残した調べた結果の記録です。
さらに、回答の注意書きにはこうありました。
- 「オープンデータの更新は年2回程度。廃止・新設のタイムラグが出ます」
- 「詳細ページのURLはしばらくすると切れるので、永続リンクにはできません」——これは実際に、保存しておいたリンクが開けなくなる失敗を経験したことがあるから言えることです。
- そして「加算の届出だけでなく、実際に照会したときの反応も重ねるべき」という発想——制度上の体制と実態は別もの、という現場の実感。
道具は、頼まれたときにデータを取ってくることはできます。でも「そこに何がないか」「どこでつまずくか」「制度と実態のずれ」は、過去にやってみて、その結果を書き残した者にしか分かりません。これが“台帳”の正体です。
何を貯めるか ― 3つの層
では、具体的に何を貯めておくとよいのでしょう。第1回の回答から逆算すると、3つの層に整理できます。
- 構造のデータ —— 事業所の台帳そのもの。名前・所在地・サービス種別・定員・加算の届出……と、項目のそろった表の形で貯める情報です。
- 現場の実感 —— 照会したときの反応、実際の受入れの経緯、見学したときの様子。数字にならないけれど、判断のときに一番効く情報です。
- 失敗と教訓 —— うまくいかなかった調べ方、切れてしまったリンク、あてが外れた項目。つい捨ててしまいがちですが、同じ失敗を二度しないための財産です。
ポイントは、②と③も「貯める対象」だと意識することです。①の台帳だけなら、極端にいえば公開情報の写しにすぎません。②と③が重なって初めて、第1回のような「経験者の答え」になるのです。
どう貯めるか ― “つながりごと”覚える器
貯め方は、正直なところExcelでも、ノートアプリでも構いません。書き残されていることが何より大事です。そのうえで、少し欲を言うと——
貯める器って、ふつうのExcelじゃだめなの?
Excelも立派な台帳ですよ。ただ、福祉の情報は「この事業所には、この加算があって、こんな声が寄せられている」というふうに、つながりに意味があることが多いんです。そういう情報は、つながりごと覚えられる器(グラフデータベース)に入れてもらえると、私はとても辿りやすくなります。
グラフデータベース——名前はいかめしいですが、イメージは「Excelの表が、家系図のようにつながっているもの」です。1枚1枚の表をバラバラに持つのではなく、「事業所」と「加算」と「現場の声」が線でつながったまま覚えられている。だからAIは、家系図をたどるように「この事業所の、加算と、評判」をひとつづきで取り出せます。ここでは、そういう器がある、というところまでで十分です。
気をつけたいこと ― 個人に紐づく情報は、別あつかい
台帳の話をしたら、必ずセットでお伝えしなければならないことがあります。
ここまでの話は、事業所や制度についての情報を貯める話です。利用者さん個人に紐づく情報(氏名、障害や健康の情報、支援の記録など)は、まったく別のあつかいが必要です。貯める場所・貯め方・照会のしかたに厳格なルールを決めてください。nestでは、個人に紐づく情報はAIの“あいまい検索”には載せず、決まった手順での照会に限定するという原則で運用しています。「便利だから、ぜんぶ同じ器に」とだけは、しないでください。
台帳は、どうやって“現場の一言”につながるのか
道具(第2〜3回)と、台帳(今回)。これで持ち物は2つともそろいました。
最終回は、この2つが組み合わさった完成形をお見せします。「この地域で、行動障害に対応できるグループホームを一覧にして」——その一言だけで仕事が終わるとき、裏側で何が起きているのか。そして、この連載が実は何の話だったのか、という種明かしまで。どうぞ続けてご覧ください。