連載の最終回です。ここまでで、AIの持ち物は2つそろいました。道具(第2〜3回)と、台帳(第4回)。今回は、これらが組み合わさって動く完成形をお見せして、第1回の「同じ質問、ぜんぜん違う答え」の答え合わせをします。
この記事は、連載「AIに道具を持たせる」(全5回)の第5回・最終回です。
- 同じ質問をしたら、ぜんぜん違う答えが返ってきた
- AIの“手足”になる道具 ― MCPってなに?
- 現場専用の道具箱 ― WAM NETから一覧表ができるまで
- 道具だけでは宝の持ち腐れ ― AIのための“台帳”を育てる
- 貯めた情報が動き出す ― “一覧にして”の一言で終わるまで(この記事)
「一覧にして」の一言で
完成形は、こんな光景です。
北九州市内で、行動障害に対応できる体制のあるグループホームを一覧にして。
はい。台帳から市内の共同生活援助を検索して、重度障害者支援加算の届出があるところに絞り、現場の記録を重ねて一覧にしますね。……できました。関係図も添えておきます。
お願いは、本当にこの一言だけ。裏側では、第3回で解剖したあの工程——台帳の検索、加算の絞り込み、現場の声の重ね合わせ、一覧と関係図への出力——が、AIの手で順番に実行されています。
できあがる一覧は、たとえばこんなイメージです(事業所名などは架空のものに置き換えています)。
| 事業所(架空の例) | 種別 | 定員 | 体制(加算届出) | 現場メモ |
|---|---|---|---|---|
| GHつばき | 日中サービス支援型 | 10 | ○ | 昨年、照会に丁寧に対応いただいた記録あり |
| GHやまびこ | 介護サービス包括型 | 7 | ○ | 見学済み。日中の過ごし方が本人に合いそう |
| GHみなと | 介護サービス包括型 | 14 | ○ | 情報は台帳のみ。次回、直接照会したい |
注目してほしいのは、右端の「現場メモ」の列です。公開情報だけでは絶対に作れない列——第4回でお話しした、②現場の実感の蓄積が、ここで動き出しています。
隠れた主役 ― “手順書”
ところで、不思議に思いませんか。「一覧にして」としか言っていないのに、AIはなぜうちのやり方——加算で絞る、現場の声を重ねる、関係図も添える——を知っているのでしょう。
実は、三点セットの最後の1つがこれです。手順書——「うちの現場では、この仕事はこう進める」を書いた、AIのための指示書です。
- 道具が「できること」を増やし、
- 台帳が「知っていること」を増やし、
- 手順書が「うちのやり方」を教える。
手順書があるから、頼む人が変わっても、日が変わっても、同じ品質の答えが返ってきます。——じつはこの考え方、以前ご紹介した「NotebookLMのカスタム指示」と地続きです。あれは“最初のお約束”を1枚渡す話でしたが、その仕事の手順版だと思ってください。
第1回の、答え合わせ
これで、連載の最初の問いに答えられます。
同じ質問に、素のGeminiは「ご自身で検索する手順」を返し、Claudeは「実行できる工程表」を返した。あの2つの答えの間にあったのは、AIの実力差ではなく——
道具+手順書+台帳。この三点セットを持たせてもらっていたかどうか、それだけでした。第1回のお約束どおり、これは優劣の話ではありません。Geminiにも同じ三点セットを持たせれば、同じことができます。
実はこれ、「親なき後」の準備の話でもありました
最後に、種明かしをもう1つ。
この連載でお話ししてきた「情報を貯めて、道具で活かす」というしくみ——nestではこれを、「親なき後」への取り組みとして実際に形にしています。
親御さんが元気なうちは、お子さんの「これだけは」——好きなもの、苦手なこと、通院先、頼れる人——は、親御さんの頭の中にあります。それを支援者みんなで引き継げる形に貯めておく器が、この連載でいう“台帳”(nestではくらしサポート(親なき後支援データベース)と呼んでいます)。そして、本人を中心とした支援のつながりを可視化した“関係図”が、支援エコマップです。
「親なき後も、支援が途切れないように」——情報を貯めて、道具で活かすというこの連載のテーマは、実はそのままnestのこの願いの話でもありました。しくみの詳細は ツール・しくみ(親なき後) でご紹介しています。
今日から、少しずつ
「三点セットなんて、うちにはとても……」と思われたかもしれません。でも、全部を一度に作る必要はありません。順番があります。
- まず、道具を1つ —— 第2回の「フォルダをつなぐ」で十分です。AIが初めて、あなたの机の上を見てくれます。
- まず、記録を1つの場所に —— 器はExcelでもノートでも。「調べて分かったこと・うまくいかなかったこと」を捨てずに書き残すことから、台帳は育ち始めます。
- 手順書は、あとから —— 同じお願いを2回したら、その頼み方を書き留めておく。それがもう手順書の種です。
きょう書き残した1行の記録が、1年後のあなたの現場で、誰かの住まい探しを助けるかもしれません。台帳を育てる主役は、AIではなく現場のみなさんです。私はその隣で、手足になりますね。
全5回、お付き合いいただきありがとうございました。「うちの事業所でも、こんなしくみを作れる?」といったご相談も歓迎です。「こんなこと、パソコンやAIでできる?」というギモンがあれば、お問い合わせフォームからぜひ教えてください。次の「教えてAIさん」で取り上げるかもしれません。